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領域概要

1. 高速分子動画法とは

高速分子動画法ではX線自由電子レーザーのフェムト秒パルスをストロボのように用い、反応開始の一定時間後(fsからsに至る広いレンジで)の構造のスナップショットを撮ることができます。この遅延時間を変えた一連のタイムラプスイメージを組み合わせ、分子の動きを動画として見ることが可能になりました。

 

2. 高速分子動画法で何をしたいか

本領域では分子動画法を活用し、生体分子の動的機構の解明を進めます。そしてその結果を用いて各種刺激によってスイッチできるタンパク質やタンパク質を制御できる物質を開発することを目指します。このために、構造生物学だけでなく、計算科学、タンパク質工学、ケミカルバイオロジーを駆使します。

 

3. これまでに成功した分子動画解析

私達はこれまでにSACLAおいてシリアルフェムトセカンド結晶構造解析法(SFX)に基づいた装置を開発し、まず実証実験としてバクテリオロドプシンを光で励起した後の20nsから2msまでの構造変化を捉えることに成功しました。

 

続いて、開発したシステムを光化学系IIに適応し、この酵素が光のエネルギーを用いて水分子から酸素を生成するために重要な中間体を捉えることに成功しました。また、光に感受性のないタンパク質にも適応を広げるため、ケージド化合物を用いて一酸化窒素還元酵素の基質との複合体を捉えることにも成功しました。より早い時間分解能でバクテリオロドプシンを解析し、fsからpsの領域においてレチナールの結合が回転することを観察し、これに伴う付近の水分子やタンパク質側鎖の動きについても解明しています。

 

(参考)
バクテリオロドプシンの分子動画 DOI : http://dx.doi.org/10.1126/science.aah3497
光化学系Ⅱの酸素発生機構の解明 DOI: http://doi.org/10.1038/nature21400
ケージド化合物を用いた時分割実験 DOI: 10.1038/s41467-017-01702-1
バクテリオロドプシンの超高速反応過程の撮影に成功 DOI: 10.1126/science.aat0094

装置開発については、SACLA-SFXのHPで紹介しています。

 

4. 本領域で行いたいこと

本領域では分子動画法の裾野を広げることを第一の目標としています。これまでに分子動画法は光感受性のタンパク質に主に適用されてきました。これをより多くの生物学的に興味深いターゲットに広げるために、タンパク質工学、ケミカルバイオロジーを用いて分子を光でスイッチするような仕組みを構築します。また、光以外の同期法についても測定装置の開発により追求したいと考えています。得られた結果は計算科学を用いてより定量的・理論的に解釈を行い、それを元に各種生体分子の動的機構に対して理解を深めます。

 

生体分子の動的構造を単に観察するだけでなく、その結果を新規機能性分子の開発につなげていこうと考えています。イメージングや光遺伝学に用いられる新規蛍光・発光タンパク質の開発やイメージングや光薬理学に用いることのできる機能性薬剤の開発につなげていきたいと考えます。

 

すでに取り組みを始めており、タンパク質の構造情報から従来の光遺伝学ツールの高効率化を達成することに松田道行先生(京大・医)との共同研究で成功しています(Kinjo et al. Nature Methods 2019)。
分子動画法から得られる動的情報を活用して、このように新規のツール開発に生かしていきたいと考えています。